にゃんこスターはなぜ評価が割れるのか
大会が終わってから
「にゃんこスターになぜあれだけの高得点が付けられたのか」
「松本人志さんが97点をつけたのはおかしい」
といった旨の声が上がり出したキングオブコント2017。
今回の記事ではあの年のにゃんこスターについて、リアルタイムでの評価と、後々になってからの評価になぜ剥離があるのかについて、その理由を述べていきます。
リアルタイムで見たかどうか
まず大前提として、「あの時のにゃんこスターをリアルタイムで見たかどうか」が一つ評価の大きな分かれ目になっていると思います。
※なお、お笑いの“好き嫌い”については考慮しないものとします。「リアルタイムで見たけど、笑わなかったよ」という人も当然いるでしょうが、それはにゃんこスターに限らないことなので。お笑いとはそういうもの。
話を戻して、リアルタイムであのにゃんこスターを見たかどうかが本当に大きな分岐点。
後から「KOC2位」「凄いウケてた」という情報を頭に入れてから見たり、
あるいはさらに時間が経ってから「あの年のにゃんこスター、そんなにだったよね」といったネットの情報を頭に入れてから見た場合、
どうしてもリアルタイム勢とは評価に差が出てきます。
また、これは単純に生放送を生で見るか録画で見るかは本当に全く違います。
何が起こるかわからない生放送を、緊張や期待を胸に見る場合は視聴者側もテンションが変わってきますので。
超無名&結成5ヶ月のダークホース
さて、まずあの年のにゃんこスターは物凄く無名のコンビでした。
「にゃんこスターを何で知った?」という質問を色々な人にしたら、
「キングオブコントで見たのが初めて」「色んな番組で見たことはあるけど、キングオブコントで結果を出したから出演が増えたんだよね?」といった声が多くの方から返ってくることでしょう。
ほとんどの方がキングオブコントきっかけ、ということはあの年のキングオブコントが始まるまでは本当に誰にも周知されていなかったコンビ。
正真正銘のダークホース、
ネットが発達し、地下芸人でさえそれほど無名とは言い切れなくなってきた今の時代においても、
結成年が浅く露出も全く無かったにゃんこスターは、ほとんどの視聴者にとっては未見の状態でした。
なにせ当時のにゃんこスターは結成5ヶ月。キングオブコントよりも以前に知っていたという人は非常に、非常に少なかったでしょう。
「知らない」というのは本当に価値がある状態で、
特に決まったスタイルやシステムで笑いを取る“フォーマット”を武器とする芸人さんの場合はこの「初見の爆発力」が大きな武器となります。
例えばキングオブコントで優勝したどぶろっくも、
1本目と2本目では観客の笑いの量も明確に違っていました。
出番順
また、にゃんこスターの出番が来る前に何組も他の芸人がネタを披露していたため、視聴者が「通常のコント」に慣れた、というのも大きなポイント。
色々なスタイルや雰囲気を楽しみながら、「コントとはこういうものだな」と再確認する時間となりました。
前振りVTR
それ故に、にゃんこスターのネタ前に流されるVTRが強い追い風となりました。
VTRに出演した芸人さんがにゃんこスターについて、「とにかく歴史が変わる」「あのネタは革新的」「笑いの原点」といった内容のコメントをしまくっていたため、
リアルタイムで見ていた視聴者や審査員は「一体どんなネタをするんだ…?」と、さらに期待を上げていきました。
この期待の上昇は結成5ヶ月のにゃんこスターだからこそ、つまり“真の無名”ならではの相乗効果で、
「何一つ情報が無いから予測のたてようがない」
「本当に何をしでかすかわからない」
「結成5ヶ月でごぼう抜きの決勝進出ってどんなネタをするんだ」
などなどの大きな期待、いや大きなワクワク・ドキドキを生んだのでした。
ちょっと子供っぽい表現になってしまいましたが、あの当時のテンションは「期待」というような一歩引いた目線よりは、
「ワクワク、ドキドキ」というシンプルな感情表現の方が適切だったと思います。
ポップなビジュアルとネタの空気感
とにかく「お笑いの歴史が変わるネタ!?まだ見たことのない笑いがあるのか…!?」という大きな興味を煽られた状態からのネタ開始。
ポップな見た目の男女コンビ、というのも、いわゆる“実力派コント師”というビジュアルからかけ離れていて、
「本当に何かしでかしてくれそう」感が高まったのはあると思います。
ネタが始まってからも派手なキャラクターそのままの、コントというよりは漫画を実写化したかのようなセリフ群や、音ネタを思わせる歌を流しながらの展開に、
「やっぱり他のコンビと何か違うぞ、このコンビは」と期待が持続。
シンプルだけどパワーのある天丼構造
そうしてボルテージが高まったところで、
「さあ、一体どんな革新的で、かつ笑いの原点に沿った展開を見せてくれるんだ…」という視聴者の心情の斜め上をスカすかのような、あの“シンプルな天丼構造”。
これは特にお笑いが好きな人やキングオブコントを真剣に見ていた人ほど、裏切られて笑ったと思います。
また、人によっては酷評されますが、“サビなのに意地でも縄跳びを飛ばない”というボケは単体でも十分面白かったのがポイント。
仮に現実にリズム縄跳びの大会があって、出演者がサビで跳ばずに踊り出したら私は間違いなく笑います。
そして本人たちも、あのボケはそれ1本で通すだけのパワーがあると判断したからこそ、ああいった構造のネタを組み立てたと思うので、
本人たちのネタを選ぶ目も十分あったのだと思います。
革新的で彼らにしか許されないオチ
そしてシンプルな天丼を何度か繰り返し、ネタも終盤、いよいよオチだけどどうなる…といったところで、
そんな視聴者の目線を意図的に切るような「僕たちのコンビ名は、にゃんこスターでした!ありがとうございました!」という、コントとしては型破りな挨拶でオチ。
これは確かに革新的だと思いました。
コントというのは通常、最初から最後まで役に入りきるものなので、
“芸人としてのセリフ”は一度も出てこないのが基本です。
だからこその裏切り、ここもシンプルではありますが確かに予想を超えた展開でした。
そしてこのオチが許されたのも、にゃんこスターだからこそだと思います。
例えば他のコント師が最後に全ての設定を壊して「僕たちのコンビ名は〜」というオチを披露したとしてもせいぜいややウケ、
ほとんどの場合は変な空気になって終わると思います。
結成5ヶ月で勢いがある、ネタは爆ハネ、見た目もセリフもポップで多少型破りなことも許したくなってしまう、
あの時のにゃんこスターだからこそあのオチは大きな評価点となり、
そして革新的であるとして人々の記憶に焼きついたのだと思います。
他のコント師があのオチをやれば「世界観を壊した」「急に奇抜な事をやりたがる若手の悪い癖」と一蹴されたかもしれません。
しかしにゃんこスターの場合は「あの世界から飛び出してきた」と言えるほど自然に、見ている側も“しょうがないな”と許して笑ってしまうような、
そんな憎らしくも可愛らしいオチでした。
「キングオブコントで他のコント師のオチの部分を思い出せるだけ思い出してみて」と誰かにお願いしたとして、一組一組思い出すのにかなり時間がかかると思います。
ただ「にゃんこスターのオチってなんだっけ」と聞いたらすぐに答えれる人は決して少なくはないでしょう。
それほどあのオチはオチとしては優秀。
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