【刑法:精神疾患】心神喪失:「責任能力が無い」となぜ減刑?理由について【無罪判決/死刑判決】

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「責任能力が無い」と減刑

さて時折ニュースやワイドショーなどで流れてくる「責任能力がないため減刑される」という言葉。

「統合失調症の人間が人に危害を加えたケースで、健常者の刑罰よりも軽くなっている!なぜ?」と思われることかと思います。

精神科に勤めていた私としても興味深いテーマです、今回はこれについてお話していきます。

さて、ではなぜ一部統合失調症の方が減刑されることになるのでしょうか?

そもそも責任能力とは

減刑される理由として挙げられるのが「責任能力の有無」。

責任能力とは、事物の是非・善悪を弁別し、なおかつそれに従って行動する能力、

つまり「注意をすればよくない結果が生じることが十分に予想でき、また行動の結果自分がどのような責任を問われるのかを理解できる能力」

のことを指します。

一方「責任能力がないため減刑されるケース」ではこの責任能力が認められない、

つまり事物の是非・善悪を弁別できず、またそれに従って行動することができない状態です。

これには乳幼児や、さきほど挙げた精神疾患によって心神喪失に陥っていた人間等が該当します。

責任能力が無い人間は罰せない

さて刑法のそもそもの大原則として、「責任」のない人間は罰せられることはありません。

例えば道に何かのスイッチが落ちていて、何も知らない我々一般人がそれを押した結果、実はそれが大量の建物の爆破に繋がるスイッチでした、

というケースでは当然我々には何の責任もありませんし、仮に罰せられても納得がいきませんよね。

そして「責任能力(注意をすればよくない結果が生じることが十分に予想でき、行動の結果自分がどのような責任を問われるのかを理解できる能力)が欠如している」

場合も同様。

つまり赤ちゃんや、心神喪失状態の人間は罰せられない、ということですね。

ここで「赤ちゃんはともかく、いい大人ならある程度責任能力があるのでは?」とお思いの方もおられるかもしれませんが、

心神喪失状態の人間とは、赤ちゃんと同じほどに事物の是非や善悪を判断する能力が欠如している、ということです。

全ての統合失調症患者が減刑されるわけではない

さて、まずここで触れておきたいのが、

「例えば統合失調症の人間が罪を犯したからと言って、その全てのケースにおいて減刑されるわけではない」という点。

統合失調症の症状については長く語るともはや別の記事になってしまうので簡単に説明しておくと、

いわゆる陽性症状(幻覚や妄想)と陰性症状(感情平板化、意欲欠如)、生活や病識の障害等が挙げられます。

どういった症状なのかについては文字のまま、

現実で起きていない出来事を強い確信をもって信じていたり、

また誰かに話しかけられたように感じたり。

「症状」によって責任能力が欠如した状態に至っても何もおかしくはありません。





ただし一方で罪を認識できていたり、行動の結果を十分に予期できている場合には、責任能力が認められます。

つまり「統合失調症の場合に減刑される」訳ではなく、

「統合失調症による症状により責任能力が欠如している場合に減刑される」という方が適切ということになります。

刑罰の目的

さて続いては刑罰の目的について。

刑罰の目的は、刑罰によりその罪を犯した人物やその他の人間に犯行を行わせないという予防的観念、

「もう犯罪を行わせないために罰する」というもの。

さてここで問題となるのが、先ほど触れたような責任能力がない人間に対し刑罰を与える意味がどの程度あるのか、という点。

例えば「赤ちゃん」についてはどうでしょう。

「再犯防止だ!」と罰する意味がどこまであるでしょうか?

心神喪失状態も同様です。健常者にとっての「認識」と、症状により生み出された「認識」はそれほど異なります。

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