ではなぜここまでミルクボーイの点数が「インフレ」したのかというと、それはもうひとえにミルクボーイ以外のコンビの出来もすこぶる良かった、ということですね。
特に功を奏したのが出番順。
まず2番手にかまいたちが登場し、ネタを披露した際、
審査員の中には以下のような考えをされた方もおられたのではないかと思っております。
「実力がわからない芸人ばかりではあるが、
おそらくこの大会でかまいたちを超える出来のネタはほとんど出てこないだろう。
2番手だから思い切った点数は付けづらいが、
仮にかまいたちに2番手相応の、抑えた点数をつけてしまうと、今後高得点をつける場面はそうそう訪れない。
つまりこれから終盤まで低い得点で推移することになってしまう。
それはかまいたちや他の芸人がかわいそうだし、番組的にも地味になってしまう。
それならかまいたちのネタも出来が素晴らしかったし、2番手ではあるものの思い切って高得点を付けよう」
あくまで推測ですが、仮に私が審査員の立場だった場合、
「安定して高得点をつけれる場面はもうここしかない」と、ハッキリその高い実力がわかっているかまいたちに対して、高い点数をつけると思います。
かまいたちは歴代の2番手の最高得点を更新していますが、その背景にはこういった「無名芸人ばかり」という要因が絡んだのでは、と思っております。
断っておきますが、かまいたちに対する点数自体は適正のものだと思っています。
ただ従来のM-1であれば、2番手ということを考慮され640点台あたりをつけられていたのかなぁと。
それ故かまいたち以上の衝撃を与えたミルクボーイが、相対評価で更なる高い得点を叩き出すことができた、ということです。
またミルクボーイやかまいたち以外のコンビが全員爆笑を取り続けた、というのも大きいですね。
仮にかまいたちとミルクボーイ以外のコンビが滑っていた場合は、客席の温度も下がりミルクボーイがあれほどの笑いを取る土壌は完成しませんでした。
つまりミルクボーイの歴代最高得点はミルクボーイの出来が素晴らしかっただけでなく、
かまいたちをはじめ他のコンビが全員素晴らしい出来だったからこそ、会場のボルテージをMAXに引き上げ続けることができ、それがミルクボーイの結果に繋がった、というのが大きいでしょう。
漫画のような展開
そして更に大きいのが漫画やドラマを彷彿とさせるような熱い展開。
トップバッターのニューヨークが盛り上げ、2番手の優勝候補筆頭かまいたちが前評判通りの超高得点を奪取。
3番手にはM-1史上唯一の2度目の敗者復活を経験し、かまいたち以上にM-1の顔になりつつある和牛が高得点をたたき出し、
優勝争いはかまいたちvs和牛になったかと思われます。
が、その後の「無名芸人たち」、すゑひろがりずやからし蓮根が立て続けに高得点を出し、
2年連続の出場となる見取り図が和牛に迫る649点をマーク。
視聴者側も「ああ、かまいたちと和牛だけの大会ではないんだ」と再認識させられたのではないでしょうか。
そしてそんな中現れたミルクボーイがあのネタを披露。
史上最高得点を叩き出したこともあり、盛り上がった空気が一気に爆発します。
また古参のM-1ファンの中には「まさかこの大会、このまま一組もスベらないまま行くのでは…?」と、嬉しい予感を抱き始めた方もおられるのでは。
その後もオズワルドやインディアンスも多様なスタイルで高得点をマーク。
しかし和牛の得点には届きません。
今年も和牛が残るのか、と思いかけていたところにぺこぱが滑り込み3位に。
和牛が落ちる展開とあいまって、非常に劇的な空気を生んだと思います。
特に、ここで滑り込んだのが「ぺこぱ」であるという点も大きなところ。
色々とこの二人やネタについて触れるとこの記事だけではおさまりませんので端的にまとめますが、
この二人のあのネタは多くの人を
「最初はキャラが苦手、つまらなそうだった」
「でもネタを見るにつれ平和的なボケが好きになった」
「後半の自虐ネタも面白いし、センスを魅せるようなボケもあって笑った」
「苦労が見えるし、憎めないキャラクター性もあり、応援したくなった」
という感想を抱いたのでは。
特に「応援したくなった」という感情と「10組目の登場」であるという点は大きく、
ぺこぱが和牛を退け3位に入った時の盛り上がりは凄まじいものとなりました。
これはひとえに、「最終決戦は安泰だろう」と思わせるほど高い実力をこれまで見せてきた和牛と、
それを打ち崩したぺこぱによるものでしょう。
この2組のどちらかが欠けてもこの盛り上がりはありませんでした。
最終決戦もやはり滑ったコンビというものが存在せず、非常にハイレベルな戦いが繰り広げられ、
最後まで目が離せない大会となったのは間違いないかと思います。
司会、決勝審査員、ゲスト
さてM-1は芸人や予選の審査員だけでは成り立ちません。
司会、決勝審査員、そしてゲストの方々の担う役割も大きいところです。
まず今大会で特に大きかったのは快進撃めざましかったラグビーのお三方。
そのキャラクターで場をあたためていました。
これは他のスポーツ選手では意外と難しいところで、特に「笑わない男」はもはやバラエティにおける恒例のギャグのように、安定して笑いを取っていたかと思います。
またお三方が活躍していた時期が12月に近かったという時期的な事情や、単純にラグビーを見ていた人が多かった(視聴率39%)ということも、
ゲストのラグビー選手の3人を受け入れやすい土壌が整った理由ではあると思います。
そして審査員の皆さん。
昨年度辺りから、1組にかける審査員のコメントの時間が大幅に伸びました。
それ故辛いコメントも目立っていた2018年でしたが、
今年度は出場芸人の出来が素晴らしいことや、観客の温度が昨年度よりも暖かいこと(後述)、
そして2016年あたりから審査員と芸人の絡みが話題になるようになり、それがしっかりと注目され始めた(そのことに視聴者が慣れた)ことなどが相まって、
「芸人がネタをするとき」以外の時間も面白い、目が離せない、という具合に大会に対する興味が持続するようになったのではないかと思います。
またあまり注目を浴びませんが、今田耕司さんの司会能力は本当に素晴らしいです。
芸人とのやりとり、滑った芸人へのフォロー、審査員コメントへのレスポンス、トラブルへの対応など。
これは今大会に限らず素晴らしい点ばかりで、過去の大会を視聴する機会があれば是非とも今田さんの名司会っぷりもご覧いただければいいのかなと。
また上戸彩さんの存在感も見逃せません。
「M-1では今田さんとセット」というのが定番化していることや、
絶妙な癒し力を醸し出していることもあり、
彼女が居ることで緊張感がいい具合に調節されています。
彼女が段取りを間違えても、それが癒しや笑いになるのは大きいところですね。
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