「進撃の巨人」伏線・考察
そもそもなぜ巨人は人間を捕食する?
この作品ではすっかりお馴染み(?)となった、巨人による人間の捕食。
当初は単なる殺戮では無いか、とされてきた巨人の捕食ですが、
物語が進むにつれて、他の理由が大きいのでは、という声があがってきました。
つまり、巨人が人間を捕食する理由は人間に戻るためです。
無垢の巨人は元々は人間でした。
しかし強制的に無垢の巨人へと変化させられ、終わらない悪夢を見ているかのような日々を送ることになってしまったのです。
この状態から人間に戻る方法は一つ、「九つの巨人」の継承者を捕食することです。
九つの巨人の継承者は人間、したがって無垢の巨人は人間を手当たり次第食べるよう本能的に刻まれているのでは、というのが有力視される説です。
単に人に危害を加えるのであれば他の攻撃方法があっても良いものを、
ほとんどの無垢の巨人は最終的には捕食しようとしているのも、
この説が有力視される理由です。
奇行種が生まれる謎
物語の序盤に特に登場した奇行種。
通常の巨人は近くにいる人を捕食しようと行動しますが、それに当てはまらない巨人を奇行種と呼びます。
そもそもあの巨人たちは一体どうやって生まれたのでしょうか。
作中で奇行種と明言されたネームドキャラ(?)はロッドレイス巨人。
この巨人は巨人化する前に明確な目的意識を持っていました。
このことから、何か強い願いや意識を持つ者が巨人化すると、奇行種になるのでは、とする説が有力視されています。
しかし、単に強い願いや目的意識があるだけでは、奇行種になる条件としては不十分であると私は考えます。
例えば物語の後半部分、メインキャラを含め様々なキャラが無垢の巨人化するシーンが何度かありました。
それらの場面で巨人化したキャラ達はいずれも、
通常の巨人と同じように近くの人間を捕食しようとする行動をとっています。奇行種にはなっていません。
では無垢の巨人化したメインキャラが強い意思や感情、目的意識を抱いていなかったのかというと、そうではないと思います。
ロッドレイスの感情の大きさをはかり知ることは出来ませんし、軽視もしませんが、
無垢の巨人化したメインキャラ達は、ロッドレイス達に負けないくらいの強い決意を持っていたはずですし、だからこそ物語終盤まで本筋に絡むことができていたわけで。
それらのキャラが無垢の巨人になってなお1人も奇行種になっていない、とすると
「強い目的意識」や「強い感情」といった要素だけで奇行種になる、というわけではない、ということになります。
さて、ここで振り返る必要があるのは無垢の巨人の行動の原則。
上述した通り、無垢の巨人は九つの巨人の継承者を取り込み人間に戻るため、近くにいる人間を捕食する、
と結論付けました。
となると、それに当てはまらない奇行種の行動は非常に特殊。
つまり奇行種になった人間は、「人間に戻ること」よりも優先したい目的があり、
それ故に近くにいる人間の捕食は後回しにしている、ということがわかります。
おそらく、無垢の巨人化したメインキャラ達が奇行種になっていないのも、
自分の目的を果たすにせよなんにせよ「まずは人間に戻ってから」という大前提があるからこそ。
結論としては、「強い目的や願いを持つ人間が奇行種になる」というよりも、
正確には「『人間に戻ること』よりも優先的に果たしたいほど優先順位の高い目的や願いを持つ人間が奇行種になる」のではないかなと、私は推測します。
「人間に戻ることはめちゃくちゃ大事だけど、巨人の姿でも成し遂げられる目的があるんだよ」という人が奇行種になりやすい、的な。
実際ロッドレイスに関しては自ら巨人の領域に足を踏み入れています。
ただし奇行種という言葉自体もほとんど登場しなくなったため、真相は闇の中となっています。
少し休憩:フロックについて
伏線や考察が立て続けなので、少し頭を使わない私の個人的な考察を挟む形で、休憩の時間を設けてみます。
ぼーっと見流していただくか、読み飛ばしていただいても構いません。
ずばりここで取り上げるのはフロックについての考察。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
私は進撃の巨人という作品の中で、ベルトルトと同じくらいこのキャラが好きです。
「この2人が好き」という人は中々お目にかかったことがありません。
ベルトルトは影が薄いですしフロックはヘイトを集めやすいですしね。
なぜフロックが好きなのか?
それはフロックが格好良くて哀れで、見ていたいと思わされるからかもしれません。
フロックというキャラクターは元々モブキャラという立ち位置でした。
登場後しばらくは名前も明かされず、調査兵団に所属していなかった同期のマルロやヒッチといったキャラと比べても
明らかな凡人として描かれていることがわかります。
これは作中でももちろん、作外においても、意図的に名前や出番を伏せられていたことは間違いないと思います。
そんな彼が一躍物語の中心に躍り出たのが「この注射は誰に打つのか」問題。
元は単なるモブキャラだった彼が巨人との戦いという凄惨な経験を経て、
誇りや、「メインキャラではない」仲間を失い、
もはや「縋るものは悪魔しかない」と考え、「悪魔」であるエルヴィンを支持し行動したのです。
フロックはエルヴィンという悪魔を蘇らせることを「おめおめと生き残った自分の存在意義」とまで言い切っていました。
そして彼は「注射の一件」の顛末を、
「私情に流された人間が大事なものを捨てきれずに、合理性を欠く決断をして悪魔を失った」と解釈し、
さらにエレンたちには
「お前たちばかりが辛いと思うなよ」
「ジャンやコニー、サシャは傍観してただけで何もしなかったよな」ています。
ここからフロックは出番をメキメキと増やしていき、名前も明かされるようになります。
名前が明かされる、メタ的に考えればフロックがモブキャラではなくなったということを意味しているとも言えるでしょう。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
マーレ編以降はもはやメインキャラとは遜色のない、むしろ単純な出番であればメインキャラよりも多いと言っても良いほどに活躍の場を増やしていくフロック。
フロックはかつてのような、情けない表情や明るい表情を見せることは無くなりました。
行動は全て「島のため」、
人間に当たり前にあるような煩悩や、くだらないジョークを発することもありません。
上述した通り、
「私情に流された人間が大事なものを捨てきれずに、合理性を欠く決断をして悪魔を失った」
「傍観は何も生まない」
とフロックは解釈しているわけですから、
私情を一切捨て、合理性を第一に、傍観はせず積極的な行動一択の人間になるのは当然ですね。
結束が固い一方で身内贔屓になる傾向にもある104期メインメンバーと比べ、
フロックは常に打算で、メイン・モブに関係なくその時点での優先順位に基づき、
大局的に見て島の人間を少しでも守れるよう行動をします。
これについても、
104期メンバーの「大事なもの(仲間)を捨てきれない姿勢」を痛烈に批判したフロックからすれば当然のことなのかもしれません。
フロックが一貫しているのはこれらの姿勢と、「島のみんなのため」。
これは本編でのフロックの、とある場面でも印象的に描かれています(ハンジさんが「巨人って素晴らしいな」してた回です)。
島のみんなを守るため敵を駆逐するために悪魔が必要、
そう考えたフロック自身が、ついには自分自身に対してすら「悪魔であること」を求めた結果が現在なのかなと思います。
「悪魔を蘇らせることがおめおめと生き残った自分の存在意義」、
エルヴィンという悪魔を失い、エレンと共に悪魔になることが、彼の存在意義となったのでしょう。
「注射の一件」はアルミンを含む兵団メンバーに大きな影響を与えましたが、
1番あの事件に囚われ続けているのは他でもないフロックなのかもしれません。
私は元々「モブからメインになるなんて変わったキャラだな」という軽い気持ちでフロックのことを気にかけていましたが、
フロックの物語を読み返せば読み返すほど、
彼の生き様は淡々と格好良くもあり哀れでもあり、
彼の人生をもっと見たくなるという気持ちに駆られたのでした。
ただまあ多くの読者・視聴者からはめちゃめちゃヘイトを集めてますけどね。
ガチガチの合理主義な上に行動は過激で、しかも多くの中心キャラと敵対してるので仕方ないと言えば仕方ないですが。
ただメインキャラに迎合しない姿勢、
それこそモブキャラの立場に寄り添い、「同期」ではなく「島のみんな」を第一に考えるフロックというキャラの個性であり、
メタ的に考えると諫山先生が作中のバランスを取る意味で与えた役割でもあるのかなと。
休憩終了。
では伏線・考察に戻りましょう。
彼らの記憶
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
物語の序盤で登場していた「彼らの記憶」という言葉。
歴代巨人の記憶を指して使われている言葉であり、
事実クルーガーがグリシャに対し「巨人の力はこうやって使う」「あとで誰かが見ているかもしれん」といった言葉を発しています。
「進撃の巨人」作中序盤にて、記憶の継承という概念が既に設定されていたことがわかる流れです。
エレンと立体起動装置の故障
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
物語序盤、エレンが立体起動装置を用いたテストで失敗続きだった場面。
本来破損するはずのない部位が故障していたため、と説明されていましたが、
その後立体起動装置の破損はキースによるものだったことが発覚します。
「この子は特別にならなくてもいい」というカルラの想いを尊重し、エレンに兵士にならないように仕向けるべく、エレンの立体起動装置の一部を破壊。
しかしその状態でエレンは自分の力でそれを乗り越えたため、
キースは改めて自分は「何も変えることが出来ない傍観者」であることを実感し、他の立体起動装置の使用を許可、エレンの合格を認めたのでした。
キースは「自分は何も変えることが出来ない傍観者」と自分を斬って捨てました。
しかし、おそらくそのことを自覚してからのキースはその行動で世界を変えてきたはずです。
多くの強力な兵士を育て、物語終盤ではさまざまな行動で結果を変えようと尽力します。
あれはキースだからこそ出来た行動の数々であり、
自分の劣等感だけにとどまらない、決して傍観だけで終わらせなかった彼の意地でもあるでしょう。
ライナーとベルトルトとアニ
進撃の巨人に欠かせないのがライナー、ベルトルト、アニといったマーレ勢。
物語の中で彼らに焦点が当たるシリーズがあるのですが、
それ以前にも実は彼らの物語の片鱗は見えていたのでした。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
「超大型巨人」のコマにジャン、アニ、ベルトルト、
「鎧の巨人」のコマにライナー。
これだけ早期から、各巨人と登場キャラクター達の因果が匂わされていたわけですね。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
訓練兵時代にはライナーがアニに「ここに来た時を思い出して真面目にやれ」と話すコマも。
当初は訓練兵時代のアニはそれほど変化がなかったことから「真面目な頃なんてあったか…?」という感想を抱きがちですが、
のちにライナーの言う「ここに来た時」が訓練所に来た時ではないことがわかっていきます。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
何かを相談をするライナー達。
マルコが紛れていることで、読者の意識も逸れた部分はあったのではないでしょうか。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
知性巨人の登場に、探りを入れるライナー。
なにげないコマですが、こういうところにもライナー達の活動が見え隠れします。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
窮地に追い込まれ、手を噛もうとしていたベルトルト。
ユミルの巨人化やクリスタの発奮に読者の意識が向いていた場面なので、より目が行かなかった部分です。
女型の巨人とアルミン
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
女型の巨人が急襲を仕掛けてきた場面。
「本当に死んでしまった死に急ぎ野郎の仇だ」と、104期のメンバーにしかわからないあだ名を含んだ文章に、女型の巨人が反応しています。
ここから女型の巨人の正体に関する考察がさらに深まっていくわけですね。
女型の巨人とフード
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
女型の巨人の手にライナーが飛び込み、その後女型の巨人が進行方向を転換した……
というのは本編でも触れられた点。
そしてその前段階、
全員がフードを被る中で、実はライナーは女型の元に攻撃を仕掛ける時にフードを外しています。
そしてこのアイコンタクト、こういった細かい点も進撃の巨人の演出のうまいポイントです。
マルコの立体起動
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
ソニーとビーン(人類が生捕りしていた巨人)が殺害された際、
各兵士が調査のために立体起動装置を提出させられている場面にて、
なにやらアルミンがアニが提出した立体起動装置を見ています。
後に触れられたことですが、アニがなぜかマルコの立体起動装置を提出していることに、アルミンが気づいているコマなわけですね。
ウドガルド城とニシン
ウドガルド城ではニシンの缶詰を巡り、「ニシン」という文字を読みその好みまで話したユミルに対し、
「これはにしんと読むのか?俺には読めない」とたずねるライナー、の図が展開されました。
海の存在すらまともに明かされていない壁の中の人間にとって、海水魚であるニシンという文字やその味を知っているユミルは不可解。
したがってライナーは、「お前は壁の中の人間なのか?」という思いを込めて意図的に、
あるいは壁の中で育った兵士状態として天然的に、
「ニシンと読むのか?俺には読めない」と言ったものと思われます。
イルゼの手帳とユミル
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
物語序盤、イルゼという女性兵士と、「ユミル」という言葉を発する巨人が接触したシーン。
その後イルゼはこの巨人を言葉で刺激した結果捕食されてしまうわけですが……
これはイルゼにより手帳という形で記録され、後にリヴァイのもとにわたります。
さて、そもそもなぜイルゼという女性に、この巨人は「ユミル様」と話しかけたのでしょうか。
物語に登場するユミルという名前を持つキャラは二人存在しますが、今回は序盤に登場した方のユミルが関係しているものと考えられます。
イルゼはユミルと同様に女性であり、髪型が似ており、かつそばかすが特徴的なキャラです。
つまりこの巨人はユミルとイルゼを誤認して、話しかけていたわけです。
ユミルは壁外では崇拝の対象となっていましたが、
ある出来事が起こり無垢の巨人へと変化しています。
諌山創,講談社,「進撃の巨人」より引用
ユミルが巨人化した際、おそらくイルゼと接触したと思しき巨人も近くに存在します。
つまりイルゼと接触した巨人は生前はユミルの崇拝者であり、
壁の内を彷徨っていた際にイルゼを発見、
強い想いから言葉を発してコミュニケーションを取ろうとしていたわけですね。
コニーの母親など、無垢の巨人でも言語機能や、あるいは強い想いによって発話が可能であることもわかります。
さらに次のページへ
はい、さらに長くなってきたので次のページへと進みます。
次のページでは、レイス家に関する伏線や、ハルキゲニアなどについて触れていきます。
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